浮世絵師・喜多川歌麿 愛媛に眠る幻の版木が現代に蘇る
愛媛県肱川町の旧家で保存されていたとある2枚の版木。研究者による鑑定の結果、この版木は約200年前に作られた喜多川歌麿筆による浮世絵木版画「狐釣之図」の主版であると判明しました。
一般的に版木は再利用されたり、破棄されたり、経年劣化によって現存するものはわずかで、判明当時歌麿筆のオリジナル版木も世界で1枚しか確認されていませんでした。この幻の版木の発見に日本中が沸き、さらに調査を進めると、海外の美術館に所蔵されている一枚の浮世絵木版画と連作であることがわかりました。
その浮世絵をもとに新たに色版を作り、当時の配色を再現して3作品が復刻されました。
木版印刷の彫り・摺りそれぞれの名手によってその姿が現代に蘇りました。
200年の重みを感じる貴重な版木を熟練の職人技で摺る
膨大な枚数を摺られたであろうこの版木は多少の摩耗はあるものの、しっかりとした桜の板で作られているため、損傷や劣化は少なく、良い状態で保存されていました。
しかし、やはり200年の時を経て再摺りを行うには慎重に扱う必要があり、この摺りを任せられた竹中木版4代目摺師竹中清八は、熟練の技術と経験によって摺りを施し、歌麿の繊細な筆跡が平成の世に現れました。
また、この主版をもとに、3作の完全復刻版が制作され、竹中清八の手によって当時そのままの浮世絵が再現されました。同じ桜の板を使っているものの、現在流通している版木とは製法が異なるため、絵具の乗り方も違います。そこで、歌麿が活躍した時代の表現を調べ、何度も調整を行なって摺りを重ねました。
竹中のあくなき探求によって歌麿が描いた「狐釣之図」が再び3枚揃って日の目を見ることとなりました。
日本で確認された二つの歌麿原版を摺りあげた唯一の摺師
原版を丁寧に摺りあげ現代によみがえらせたのは、竹中木版四代目摺師 竹中清八。日本で発見された喜多川歌麿作「狐釣之図」(風の博物館・歌麿館所蔵)、「蹴鞠之図」(渡辺美術館所蔵)の貴重なオリジナル版木、いずれもを摺りあげた唯一の摺師と言えます。
摺りの第一人者として摺刷技術を磨き、この他、京都仁和寺所蔵「孔雀明王像」の世界最多約1400度摺り複製木版画に挑むなどの功績が讃えられ「現代の名工」「黄綬褒章」受章。
概要
内容 | 「喜多川歌麿 狐釣之図」原版摺り 複製木版画摺り |
作者 | 喜多川歌麿 |
原本制作時期 | 18世紀末期 |
版木 | 桜木板 |
原版摺り | 竹中木版四代目摺師 竹中清八 |
復刻版制作 | 版元:芸艸堂 / 彫り:松田俊蔵 / 摺り:竹中清八 1999年(平成11年)製版 |
サイズ | 各タテ約33cm×ヨコ約24cm |
仕様 | 桜板 全39枚 各16版 100組 |
復刻期間 | およそ6ヶ月(研究・摺り) 1999年10月完成 |
所蔵 | 風の博物館・歌麿館 |
風の博物館・歌麿館
「風のまち」として知られる大洲市肱川町にあるミュージアム。歌麿館には、浮世絵の発達段階や歴史を、パネルで紹介。また、歌麿をプロデュースし世に出した蔦屋重三郎の店『蔦屋耕書堂』を復元し、浮世絵の販売されていた様子を再現。「狐釣之図」の復元を例に浮世絵の制作の工程について紹介している。また、彫りや摺りに使用する道具も展示。