版木に命を吹き込む、それが彫師の仕事
絵師が描いた版下絵を元に木版画の原板となる「版木(はんぎ)」を作る彫師。1色ずつ色を重ねても紙がずれない「見当(けんとう)」という印を寸分の狂いなく、ぴったりと仕上げる正確さや、色を重ねて表現するための版分けを行うなど、後の作業効率に関わる重要な工程を担います。
彫師は彫刻刀の刃先を0.1mm単位で板面に入れ、筆で描かれた質感を版木に再現するという細かく丁寧な技術と、何より高い集中力が欠かせません。
彫りの工程では、描写によって10種類以上の大小様々な彫刻刀を使い分けます。常に切れ味を保つように道具の手入れも必須です。
竹中木版印刷所の彫師
名門・菊田流木版彫刻を継承する現代の名工・藤澤洋氏に技術を学んでいます。
職人 / 野嶋一生
彫師の工程
主版(おもはん)を彫る
はじめに輪郭線となる主版を彫ります。絵師が描いた輪郭線の版下絵を伏せて置き、糊で貼り付けます。筆筋が見えるように和紙を薄く剥ぎ取り、線を浮かび上がらせるために椿油を表面に塗りこみます。浮き上がった線にそって彫刻刀を入れ、木の目を読みながら絵具が乗る凸面を中心にすり鉢状に周りを彫り進めます。
校合摺り(きょうごうずり)
校合摺りとよばれる多色の場合に色版(いろはん)の版下絵となる墨摺りを行い、絵師がこの校合摺りに色の指示を書き込みます。基本的に一色一版ですが、同じ色でも濃淡によって版を分けることもあり、この見極めは仕上がりを左右する大事な作業です。
色版を作る
主版と同様に、色ごとに絵師が指示を書き込んだ校合摺りを貼り付けて彫り進めます。基本的には、使用する色ごとに1版制作します。
見当を入れる
「見当」といわれる、幾重に色を重ねても紙がずれないための印を刻みます。印は引きつけ見当とカギ見当の2ヶ所です。(このことから判断を誤ることを意味する「見当外れ」という言葉が生まれました)
調整を行う
版木が全て完成すると、版のズレや彫り残りしがないか確認のために摺師が試し摺りを行います。修正があれば、彫師が微調整を行います。