何百枚、何千枚でも、同じ完成度の作品を摺る
バレンで絵具を和紙に摺りこみ、色を重ねて作品を仕上げる「摺師(すりし)」。一度に何百、何千枚もの木版画を全て同じ品質で制作するため、微細な差異も見逃さない鋭い感覚が必要です。
赤・青・黄・黒・白の基本色の顔料を調合し、無限の色の組み合わせから的確な分量を膠(にかわ)でといて、版下絵に込められた絵師の意図を汲み取って色を作ります。
また、美しい摺りのためには、使用する和紙に水分を与えて絵具が紙の繊維にしっかりと摺り込まれるように湿す準備が大切です。紙が水分を含むと、温度や天候により状態が変わるため、季節に応じて水分量や時間を調整しながら行います。
このようにバレンを持って摺り始めるまでの下準備は、作品の仕上がりを左右する要であり、日々繰り返して行う長い経験によって培われていきます。
鉱物を用いる雲母(きら)摺りや、浮世絵の見事なグラデーションのぼかし技法など、摺りの表現は多岐にわたり作品に表情を与えていきます。
竹中木版印刷所の摺師
明治年間創業の老舗手摺匠 竹中木版は現在、六代目まで継承されています。
竹中木版現当主 四代目摺師・竹中清八 / 五代目摺師・竹笹堂代表 竹中健司 / 六代目摺師・原田裕子 / 森愛鐘
摺師の工程
絵具と和紙を準備する
摺りに入る前に和紙と絵具を準備します。和紙を並べて水を含ませた刷毛で表面をなでて軽く湿らせ、絵具が和紙の繊維の層に入りやすくなるよう「湿し(しめし)」を行います。同様に湿した厚紙に挟んで乾燥を防ぎます。
絵具は使用する和紙の色合いや、染み込み具合などを計算して調合します。不溶性の着色粉末である顔料を使用し、和紙に顔料を定着しやすくするために「膠(にかわ)」を混ぜます。これら絵具の調合の分量は記録されず、同じ作品を摺るときは改めて出来上がった木版画と見比べて色作りを行います。
摺り(試し摺り)
水を含んだ刷毛で版木の表面を軽く湿らせ、絵具と、版木上で絵具を均一にのばすために「のり」をのせて刷毛で全体に広げます。次に、湿した和紙を見当にあわせて版木にのせて、和紙の繊維の間に摺り込むように力強くバレンを動かしていきます。
紙全体をバレンで摺った後、素早く版木から和紙を剥がし、版下絵と色を見比べて差異がないかを確認します。色の微調整を行い、版下絵の色と合わせて本摺りに入ります。
本摺り
本摺りでは、試し摺りで確認した摺り方や色合いをもとに、数百枚単位で一色ごとに摺りを重ね、それぞれの版ごとに同じ調子で摺り続けていきます。こうして一色ずつ和紙に摺り重ねることで、一枚の木版画作品が出来上がります。